MRIの一連のシーケンスにおけるRFおよび傾斜磁場のタイミングや強さを表した図をPSD(Pulse Sequence Diagram)といいます。
今回はSE法を例にして、PSDを解説します。
スピンエコー法のPSD
横軸は時間です。縦軸にRFパルス、3方向の傾斜磁場のタイミングと強さが書かれています。
記載の順番に決まりはありませんが、この図だと
- RF:RFパルス(ラジオ波)
- Gz:スライス選択磁場
- Gy : 位相エンコード傾斜磁場
- Gz :周波数エンコード傾斜磁場
- echo:エコー
の順に並んでいます。
R F:RFパルス(ラジオ波)
RFパルスのタイミングと強さが示されています。(90°パルス、180°パルスなど)
任意の強さの場合はα°パルス(アルファ度パルス)と書かれることもあります。
Gz:スライス選択磁場
スライス選択磁場(Gz)のタイミングと強さが示されています。
スライス選択磁場(Gz)は、90°パルス印加時に同時に使われます。
⇛ 複数のスライスを撮像するときは、180°パルス印加時にも使われます。
図の表す意味:90°パルスとスライス選択傾斜磁場(位相シフトとの関係)
まず、大事なことは、傾斜磁場をかけると位相は必ず分散(dephase)してしまうということです
本来はT2やT2スター緩和による位相変化をみたいのに、傾斜磁場も位相を変えてしまうため、本来の信号が取得できません。
そこで、位相を戻したり目的の地点で位相を揃える目的で、傾斜磁場の印加が行われます。
下図にスピンエコー法のPSDの90°パルスの部分を示します。
位相シフトは本来PSDにはない項目ですが、傾斜磁場の説明がしやすいように追加しています。
直線上にあるときが位相が揃っていること示しています。
スピンエコー法では、最初の90°パルスと同時にスライス選択傾斜磁場が使われます。
そのため、90°パルス印加中も傾斜磁場によって位相分散していきます。
⇛位相を戻すために90°パルスの印加後に逆方向に傾斜磁場(再収束傾斜磁場)がかけられます。
- スライス選択傾斜磁場(a)がかかると位相は分散していきます…①
- 同時に印加される90°パルスの効果で位相はゆっくり揃っていきます。(点線で表現)…②
- 90°パルスの中心で位相は完全に揃います…③
- 引き続きスライス選択傾斜磁場(b)がかかっているので、位相は分散していきます…④
- マイナス方向へ再収束傾斜磁場(C)をかけます…⑤ ※注
- 再び位相が揃っていきます…⑥
- 位相が揃います…⑦
※注 位相が揃った時点の③→⑤までにかけられた傾斜磁場(b)と同じ強さの傾斜磁場 (C) が負の方向にかけられます。(傾斜磁場の面積:b=C)
図の表す意味:180パルスとスライス選択傾斜磁場(位相シフトとの関係)
PSDで180°パルスを見ると下図のようになっています。
180°パルスは、TE/2で分散した位相TE/2後に再収束させる役目をします。
複数のスライスを撮像する場合は90°パルスと同じようにスライス選択傾斜磁場がかけられます。
また180°パルスの前後には1対のCrusher Pulse(クラッシャーパルス:aとb)が印加されます(後述)
- クラッシャーパルス(a)が印加されます…①
- その後180°パルスが印加されます(b)…②
- スライス選択傾斜磁場によって位相がずれていきます…③
- 180°パルスの真ん中で反転されます…④
- マイナス方向へスライス選択傾斜磁場(b)が印加されます…⑤
- マイナス方向のスライス選択傾斜磁場(b) によって位相が揃っていきます…⑥
- クラッシャーパルス(b)が印加されます…⑦
- スライス選択傾斜磁場による位相シフトが元に戻ります …⑧
スライス選択磁場による位相分散は戻されたので、TE/2後に再収束することになります。
クラッシャーパルスについて
180パルスによって、TE/2後に位相は再収束するはずですが、もし180°パルスが不正確だった場合、横磁化が残りFIDが発生します。
このFIDの発生を抑える目的で1対のクラッシャーパルスが印加されます。FIDが発生するのは180パルス印加後なので、実際に横磁化をクラッシャーしているのは、(b)のクラッシャーパルスです。
180°パルスを挟んで同じ大きさで逆方向の(180°を挟んでいるので図ではbも正の方向)パルスを使うことでクラッシャーパルスによる位相シフトをプラマイゼロにしています。
Gy:位相エンコード傾斜磁場
位相エンコード傾斜磁場は、位相エンコード時に印加されます。
タイミングと強さ(面積)が示されています。
位相エンコードごとに強さが違うため、複数の強さ(面積)を一つの図で表しています。
Gz :周波数エンコード傾斜磁場
周波数エンコード傾斜磁場は、周波数エンコード(リードアウト)時に印加されます。
Spin echo法では、90パルスからTE後に位相が再収束します。
このとき、周波数エンコード傾斜磁場を印加すると(スライス選択傾斜磁場と同じように)位相は分散していきます。
周波数エンコードで正の傾斜磁場のみを印加すると、TE/2の時点では傾斜磁場による位相分散が大きくなり強い信号がとれません。
そこで、以下の操作がおこなわれます。
- 事前に周波数エンコード傾斜磁場の半分にあたるマイナス方向の傾斜磁場(a)を印加する…①
- 位相がマイナス方向にずれていく…②
- プラス方向へ 周波数エンコード 傾斜磁場(b)を印加する…③
- 位相が揃っていく…④
- マイナス方向の傾斜磁場(a)=プラス方向の傾斜磁場(b)になった時点で位相がそろう…⑤
- 位相はプラス方向にずれていく…⑥
- 周波数エンコード傾斜磁場が切られる…⑦
事前に、マイナス方向に傾斜磁場をかけておくことで、echoの中心で位相を揃えています。
※マイナス方向の傾斜磁場は180°パルス直前にかけることもできます。
Echo
形成されるエコーが示されています。形状はSinc関数となります。
いかがでしたか?今回は基礎的な解説でしたが、これを参考の他のシーケンスのPSDも読み解いてみてください!